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薬物療法・漢方療法

薬物療法

薬物療法心療内科や精神科の治療では、主に薬物療法と精神療法・心理療法を行います。
正確な診断結果に基づいた適切な薬を服用することで、多くの精神症状の軽減・解消が可能となります。心療内科・精神科で処方される薬が効果を発揮する症状としては、例えば、抑うつ、躁状態、不安、焦燥感、妄想、幻覚、不眠などが挙げられます。これら症状が解消されれば、患者様が元から持つ自然治癒力の向上も見込めます。

「病気」に対する薬と
「症状」に対する薬

心療内科・精神科の処方薬は脳に働きかけますが、病気に対して効果を発揮するものと、症状に対して効果を発揮するものに大別されます。

「病気」に対する薬

例えば、うつ病に使用する抗うつ薬など、精神疾患自体に効果を発揮する薬です。うつ病はセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの神経伝達物質が不足することが主な原因ですが、抗うつ薬はこれらのモノアミンを増加させることで、うつ病そのものの改善が期待できます。

  • 抗うつ薬(うつ病)
  • 気分安定薬(双極性障害)
  • 抗精神病薬(統合失調症)

「症状」に対する薬

例えば、不眠症に使用する睡眠薬など、症状に対して効果を発揮する薬です。根本的な原因に対してのアプローチではなく対症療法ではありますが、不眠症状が改善されることで、それに付随する精神症状の改善も期待できます。

  • 睡眠薬(不眠)
  • 抗不安薬(不安・緊張)
  • 漢方薬(不安・緊張・不眠)

薬の種類

抗うつ薬

抗うつ薬は、主に脳内の神経伝達物質(特にセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミン)のバランスを調整することで、気分や感情を安定させ、うつ症状を改善するために使用されます。うつ病や関連する精神疾患では、これらの神経伝達物質の働きが乱れていると考えられており、抗うつ薬はその乱れを整えることで効果を発揮します。抗うつ薬は様々な種類がありますが、いずれも効果は使用開始から2~4週間ほどで現れます。使用してすぐは効果を感じられないですが、継続することで効果が現れるので、医師の指示に従って服用を続けましょう。うつ症状の改善だけでなく、不安や不眠、集中力の改善などにも効果があります。しかし、症状の原因が必ずしも神経伝達物質の乱れだけでないため、心理療法や生活習慣の見直しと併用することでより効果的な治療が期待されます。抗うつ薬は主に、効果の強さ、作用機序、副作用の違いによって分類されています。代表的な薬剤とその特徴について以下のように説明します。

1. SSRI
(選択的セロトニン
再取り込み阻害薬)

代表的な薬剤
  • フルボキサミン
  • パロキセチン
  • セルトラリン
  • エスシタロプラム
効果

セロトニン(5-HT)の再取り込みを選択的に阻害し、脳内のセロトニン濃度を増加させ、気分の改善や不安の軽減に効果を示します。うつ病や不安障害、強迫性障害の治療に広く使用されます。

副作用

吐き気、下痢、頭痛、めまい、性機能障害など

2.SNRI(セロトニン・
ノルアドレナリン
再取り込み阻害薬)

代表的な薬剤
  • デュロキセチン
  • ベンラファキシン
  • ミルナシプラン
効果

セロトニンおよびノルアドレナリンの再取り込みを阻害することで、これらの神経伝達物質の濃度を高め、抗うつ効果を示します。うつ病や疼痛を伴ううつ状態に使用されることが多いです。

副作用

消化器症状(吐き気や便秘)、頭痛、めまい、発汗増加、血圧上昇、性機能障害など

3. NaSSA
(ノルアドレナリン作動性
・特異的セロトニン作動性
抗うつ薬)

代表的な薬剤
  • ミルタザピン
効果

セロトニンとノルアドレナリンの放出を促進することで抗うつ効果を発揮します。鎮静作用があり、不眠や不安が強い患者に適しています。

副作用

眠気、体重増加、口渇など

4.TCA(三環系抗うつ薬)

代表的な薬剤
  • イミプラミン
  • アミトリプチリン
  • クロミプラミン
効果

ノルアドレナリンとセロトニンの再取り込みを阻害することで抗うつ効果を示します。強力な効果を持ちますが、副作用が多く、他の薬剤で効果がない場合に使用されることが多いです。

副作用

口渇、便秘、視覚異常、眠気、体重増加、低血圧、性機能障害など

5. 新規抗うつ薬・
セロトニン変調薬

代表的な薬剤

ボルチオキセチン(一般名:ボルチオキセチン)は、比較的新しいタイプの抗うつ薬で、SSRIやSNRIに代わる新しい治療選択肢として注目されています。

効果
  • 抗うつ効果:ボルチオキセチンは、気分の改善、不安の軽減、睡眠改善など、幅広い抗うつ効果を発揮します。他の抗うつ薬と比較して、認知機能の改善効果が報告されており、特に注意力や記憶力の向上が期待されています。
  • 不安の軽減:セロトニンの作用を幅広く調整することで、不安症状にも効果を示します。
  • 良好な忍容性:他の抗うつ薬と比較して、性機能障害や体重増加が少ないとされ、長期的な使用でも比較的忍容性が良いとされています。
副作用

吐き気や下痢、めまいや頭痛など

6.スルピリド

従来から胃薬としても活用されており、特に男性に対して処方されることが多いです。女性が使用する場合、プロラクチンの上昇による生理不順などの副作用に注意しましょう。

副作用

生理不順、ふらつき、眠気

睡眠薬

精神疾患では睡眠が不安定になることはよく見られます。睡眠が不足すると心身の疲労が回復せず、病気の回復遅延、症状の悪化につながりますので、睡眠を整えることは病気の治療上きわめて重要です。現在使われている睡眠薬は、脳の機能を経過させる睡眠薬が中心で依存性が高い薬が多かったですが、最近は自然な眠気をもたらす睡眠薬では依存性が少ない薬も開発されています。

ベンゾジアゼピン系
睡眠薬

複数の種類があり、薬によって効果の持続時間が異なります。不眠のタイプに応じた適切な処方を行いやすいメリットがありますが、比較的依存性が高い点がデメリットです。

副作用

依存、眠気、健忘、ふらつき、離脱症状

オレキシン受容体拮抗薬

脳の覚醒をコントロールするオレキシンという物質の受容体を阻害することで、睡眠を促します。比較的依存性は少ないです。

副作用

日中の眠気、倦怠感、めまい、悪夢

メラトニン受容体作動薬

生活リズムを安定化させるメラトニンの働きを促す効果があり、生活リズムの改善や睡眠改善が期待できます。副作用が他の治療薬に比べて少ないですが、効果は弱いのが特徴です。

副作用

倦怠感、眠気

抗不安薬

不安を軽減する薬で、ベンゾジアゼピン系という睡眠薬と似た成分が含まれます。
即効性があり不安や緊張を軽減する効果が強く、不安症の方に対して用いられています。一時的な症状が心の反応で生じている場合は、抗不安薬で落ち着けることが大事です。また、これがあれば大丈夫という安心感をもつことも治療上大事です。ただ、昨今は依存性の高さを指摘されており、処方する際は適応をしっかり見極め、使用が長くならないように注意が必要です。抗不安薬は、作用時間、効果の強さ、副作用などを勘案し、多数の種類のなかから選択して使用されます。

副作用

依存、眠気、めまい、倦怠感

抗精神病薬

抗精神病薬は、おもに統合失調症の治療薬として使われています。統合失調症にも様々なタイプがありますが、一番多いのは、幻聴や妄想といった症状を特徴とする統合失調症です。抗精神病薬はそれ以外にも、気分安定作用があるといわれています。このため、双極性障害のように気分の波がある病気に使われます。それ以外にもイライラや興奮を落ちつけて衝動性を抑える、食欲を増加させる、睡眠を深くする、抗うつ剤の効果を増強するといった目的で使われます。

  • オランザピン
  • リスペリドン
  • クエチアピン
  • アリピプラゾール
  • ブレクスピプラゾール
  • ルラシドン
副作用

眠気、倦怠感、ふらつき、めまい

気分安定薬

気分安定薬は、気分の波を落ちつける効果が期待できるお薬になります。それぞれのお薬によって特徴が異なりますが、

  • 抗躁効果:上の波を抑える
  • 抗うつ効果:下の波を抑える
  • 再発予防効果:ゆるやかな波にする

この3つの作用が期待できる薬があります。
気分安定薬としては、以下のような薬が分類されています。

  • リチウム
  • ラモトリギン
  • バルプロ酸
  • カルバマゼピン
副作用
商品名 多い副作用 重篤な副作用
リーマス 振戦・多飲多尿・下痢・体重増加 リチウム中毒
デパケン 眠気・ふらつき・吐き気 高アンモニア血症・肝機能障害
テグレトール 眠気・ふらつき・めまい・吐き気 重症薬疹・無顆粒球症・聴覚変化
ラクミタール 吐き気・眠気 重症薬疹

ADHD治療薬

ADHDの特徴である「不注意」「衝動性」「多動性」などを緩和する効果があります。
現在成人のADHDの治療薬としては、大きく次の3つの薬があります。

  • 精神刺激薬:メチルフェニデート(コンサータ)
  • 非精神刺激薬:アトモキセチン(ストラテラ)、グアンファシン塩酸塩徐放錠(インチュニブ)

精神刺激薬

メチルフェニデート
(コンサータ)

メチルフェニデート(コンサータ)はADHDへの適応が認められた精神刺激薬で、ノルアドレナリンとドーパミンの両方の働きを強めますが、おもに脳内のドーパミンの働きを強めます。
集中力の無さ、過活動、衝動性、日中の眠気、抑うつ状態などを緩和させる効果が期待されます。
コンサータは、依存や乱用の恐れがあり、第三者委員会によって流通が厳しく管理されています。
副作用:食欲不振や不眠

非精神刺激薬

アトモキセチン(ストラテラ)

両方の物質の働きを強めますが、おもにノルアドレナリンの働きを強めます。コンサータよりも効果がマイルドで副作用も少なく、流通管理もないために、まず使われることが多いお薬です。
副作用:吐き気

グアンファシン塩酸塩徐放錠
(インチュニブ)

従来のものと異なる作用の仕方で、神経伝達物質を増やすのではなく、受け取りやすくする働きがあり、他の薬との併用での増強効果が期待でき、依存性や乱用のリスクが少ないなどのメリットがあります。
副作用:血圧低、眠気

漢方薬

漢方薬漢方薬は西洋薬に比べると副作用のリスクは少ないです。種類は多岐にわたり、不安や緊張を軽減する薬もあります。精神科領域で比較的よく使われる漢方を下記に列記します。

  • 抑肝散:神経の高ぶりやイライラ、不安、緊張
  • 加味帰脾湯:不眠、精神疲労、倦怠感
  • 半夏厚朴湯:のどの違和感、不安感
  • 柴胡加竜骨牡蛎湯:不安感、イライラ、動機
  • 桂枝加竜骨牡蛎湯:不安感、緊張、不眠
  • 黄連解毒湯:強いイライラ、怒りっぽさ
  • 釣藤散:頭痛、肩こり、めまい
  • 当帰芍薬散:冷え性、月経前症候群(PMS)
  • 補中益気湯、人参養栄湯:易疲労感、意欲低下

漢方療法

漢方薬は、食物や鉱物などの自然由来の生薬を2種類以上組み合わせた薬です。漢方薬には数千年の歴史があり、各生薬の組み合わせによる効果、副作用の有無などが確認されて確立されました。日本の保険制度でも漢方は保険適用となっています。

漢方が得意とする
症状・悩み

  • 虚弱体質
  • 胃もたれや便秘、食欲不振などの胃腸疾患
  • アレルギー疾患
  • 冷え性
  • 物忘れや腰痛など加齢に伴う症状
  • 不眠、軽いうつ病、イライラなどの精神症状
  • 生理痛や不妊、更年期障害による症状など女性特有の悩み

上記のような心身に起こる症状・疾患に対して効果を示します。

漢方療法の特徴

  • 長年の経験則に基づいた治療です。
  • 精神・身体を一体として捉え、特定の症状・疾患に限定せずに総合的な治療を行えます。
  • 個人の体質・訴えを重要視しており、原因がはっきりしない症状、病気の前段階の状態でも治療が可能です。
  • 天然由来の生薬を組み合わせて作っているため、複数の症状に効果を発揮します。

現在処方されている漢方薬は、長い歴史のなかで有効と判断されたもので、長期間にわたり服用してもリスクが少ないとされています。現在、科学的な研究もされており、漢方薬の作用機序についてのエビデンスが徐々に判明してきています。

西洋薬との違い

西洋薬は多くの場合、1つの有効成分から開発されており、血圧低下、殺菌、痛みや熱の解消など、1つの症状・疾患に効果を発揮します。
また、西洋医学では患者様が訴える症状のほか、検査結果に重点を置いており、検査結果をもとに疾患の推定や治療方針を考えます。そのため、検査結果がはっきりと出る疾患の治療に長けています。
反対に、漢方薬は複数の生薬から作られており、様々な症状に効果を発揮します。
また、漢方医医学では、患者様の体質・訴えに重点を置いて処方内容を検討します。そのため、体質が原因となる症状、例えば、虚弱体質や冷え性、月経痛、はっきりと検査結果が出ない更年期障害などの症状の治療に長けています。
このように、特定の症状・疾患に限らず、総合的な治療を行えます。例えば、漢方薬の一種である牛車腎気丸は、頻尿・腰痛に特に効果を示しますが、むくみや疲れなどの症状にも効果を示すことがあります。